画家 前田 利昌 さん

DSC_0036.JPG 前田 利昌 さん
 調和のとれた構図と柔らかな色彩で、光と陰の美しさをキャンバスに閉じ込める。人物・静物画を中心に、軽井沢やヨーロッパの風景画も描く。日本橋・高島屋、三越などで、定期的に個展やグループ展を開き、作品を発表し続けている。
 1943年宮崎県小林市出身。三人兄弟の末っ子で、すぐ上の兄とは7歳の年の差。「あまり遊んでもらえず、一人で絵を描いていた記憶しかない。家の障子や襖にも描いたけど、怒られたことはありませんでしたね」
 小学5年のとき、担任から「そんなに絵が好きなら」と小中学校の教諭が集う月例の美術勉強会に誘われ、中学卒業まで子どもでただ一人参加し続けた。中学2年のある日の勉強会で初めて、裸婦をモデルに描くことがあった。
「着衣の女性像は描いてきましたが、ここで慌てちゃいけない、と平然を装いました。何回も描くうち、花や壺と同じ、モチーフの一つとしてモデルを見られるようになりました」
 東京芸術大学では小磯良平氏に師事。大学院卒業後はフランス政府給費留学生として、マルセイユ、パリの美術学校で学んだ。現地の生徒の作品は「技術的には拙いけど、感覚がとても自由で、真似できないものがあり刺激的でした」。
 帰国後、初めて個展を開いた東京・銀座「パピエ画廊」の客だった、旧軽井沢の茜屋珈琲店初代店主、船越敬四郎さんのすすめで、1982年に軽井沢へ移住。四季の中でも特に、冬の軽井沢の風景に惹かれた。雪が降れば、今でも描く景色を探しにクルマを走らせる。
「春や夏もワクワクする景色はあるのですが、なぜか気持ちが乗らないんです。重要なのは『絵になるか』より『描きたくなるか』」
 1988年から2009年まで群馬県立女子大学の教授として後進を指導。現在は朝8時から自宅のアトリエに入り、夕方まで描き続ける。
「モチーフの力を借りながら、光の明暗、リズムを追求していきたい」
 2010年から毎秋、旧軽井沢の酢重ギャラリーで個展を開く。今年は9月17日から30日。移り住んで34年。「軽井沢に来てよかった。他は考えられない」と振り返りながらも、「海辺の街に移り住んでいたら、作品も変わっていたでしょうね」と、思いを巡らせた。

関連記事