検証1 南軽井沢・発地メガソーラー

発地・馬取地区に計画され、大きな波紋を呼んだ敷地3万坪のメガソーラー。軽井沢町長へ反対の署名が提出され、テレビや新聞などマスコミにも取り上げられたが、その後、どうなったのか、気にかけている人も多いことだろう。ここではこれまでの経過を検証し、今後の軽井沢での「太陽光発電」と「自然景観」の問題を考える。
ph_201504_01.jpg馬取地区のメガソーラー計画地では今年に
入ってから工事が始まった。
現場ではブルドーザーが動き、
切られた木々が積んであった。
(3月12日撮影)
外周100m内の近隣へ説明会

 2014年9月17日、馬取公民館で株式会社JMS(東京都新宿区)による太陽光発電事業の説明会が近隣住民に向けて行われた。JMSの発表によると、敷地面積99,663㎡(約3万200坪)、19,980枚の太陽光パネルで最大約6,000kWを発電する計画だ。JMS側は「自然エネルギーは二酸化炭素の発生削減に貢献できる」と強調。一方、参加者からは「樹木を伐採してまでやるのは矛盾している」などの反対意見があがった。土地の所有者は29人の馬取区民からなる馬取共有地財産管理組合で、既に20年の賃貸契約を行ったという。軽井沢町の太陽光発電設置基準では近隣100m範囲の住民に説明会を開くことになっているが、この計画地100m以内にあてはまる家はわずか数軒。反対意見を述べるのは範囲外の人ばかりだった。
 その後JMSへの取材により、以下のことがわかった。2013年に馬取共有地財産管理組合に説明会を開催。2014年1月、組合総会において土地借用に関する議決がなされた。同年3月、JMSは経済産業省より承認され、中部電力に接続許可の申請を行った。軽井沢町生活環境課に正式に届け出たのは6月。その後も生活環境課に相談し意見を聞きながら進めてきたということだった。中部電力から系統接続許可を受けたのは同年10月で、契約金額は1kW36円だった。
自然環境を危惧する声

 9月26日に行われた軽井沢自然保護審議会では、このメガソーラーが議題にあがった。同審議会の事務局(生活環境課)は「設置基準に適応している」「境界から10m及びメンテナンススペースはできる限り樹木を残す」「雨水は北側へ流れるよう設計している」「区長も財産管理組合も計画を推進している」等を説明した。委員からは「現地を見なければわからない」という声があり、現地視察をした上で審議することになった。
 10月10日の視察後すぐに審議会が開かれ、反対は2名、賛成多数で可決された。決定は新聞等で報じられ、このとき初めて多くの町民が、メガソーラーの計画を知った。
 「軽井沢の自然を破壊してメガソーラーを作るなんて」「なぜ自然保護審議会が認めるのか」という町民の声が広がっていった。町民ばかりか町議会議員もほとんどが知らないうちに決まったことに疑問を感じた人もいた。「これでは納得できない」という町民の声が高まっていった。
 軽井沢新聞では、この問題を町民に投げかける意味でアンケート調査を行ったが、その結果「計画に反対」は70%、自然保護審議会の決定に「納得できない」は74%という大きな数字が浮かび上がった。また意見も多く寄せられ、敷地の広大さというよりは「木を切ってまで行うメリットがあるのか」「野鳥や小動物が暮らす場を失う」「環境調査を行うべき」など自然環境を心配する声が多かった。

署名提出し、陳情書も



 メガソーラー計画を町が認めたことに納得できないという声は大きくなり、10月上旬「南軽井沢・発地メガソーラー計画を考える会」が発足、反対の署名運動が始まった。

 「考える会」は11月19日、町議会に計画を白紙に戻して環境調査を行い町議会で審議することを求める陳情書を提出した。町議会は社会常任委員会において審議したが、「軽井沢自然保護審議会の決定を重視する」との方向で不採択となった。

 12月10日「考える会」は藤巻進軽井沢町長に「広大な緑を失うことは軽井沢の損失」として1212名の反対署名を提出し、同計画の白紙撤回を求めた。町長は「現段階では再生可能エネルギー推進が町のスタンス」と審議会の決定を支持しつつも、「今後は軽井沢での太陽光発電のあり方を考えなければいけない」と述べた。



各地で反対運動、長野県も環境アセス対象に



 この1、2年の間にメガソーラーが景観に及ぼす影響が全国各地で問題となっている。2013年に静岡県藤枝市では緑地帯10,000㎡に約3,800枚の太陽光パネルを敷く計画があり、業者と住民が対立し、業者が白紙撤回を決めた。九州の湯布院では「自然環境と再生可能エネルギー設備事業との調和に関する条例」を策定。さらに貴重な自然や優れた景観のある地域は「メガソーラー抑制地域」に指定する条項を盛り込んだ。長野県でも上田市や伊那市など各地で設置反対の運動が展開され、阿部守一長野県知事は2015年3月4日、メガソーラーを環境アセスメントの対象に含める意向を示した。



抜け穴だらけの設置基準



 軽井沢には2013年に制定した「太陽光発電施設設置基準」があり、自然保護審議会でもこの基準に合っているかどうかがまず判断される。しかし、これには上限がないため5万坪であろうと10万坪であろうと広さは問題にならない。また、「第一種低層住居専用地域(保養地域)は設置禁止」といいながら「特定道路から見えなければいい」という抜け道がある。別荘地の多くは特定道路(国道やバイパスなどのことで、1,000m林道のような道路は含まれない)からは見えないので、別荘地の中でもほとんどが設置可能となる。「原則として周囲への植栽を行う」となっているが、「状況により常緑樹」と書かれているので落葉樹でもいいということになり、秋に葉が落ちると丸見えになる。この設置基準に合わせ、その後も太陽光発電設置の申込みが相次いで認められている。(広川小夜子)


Voice
長野県地球温暖化防止活動推進員 百瀬湜夫さん(軽井沢町長倉)
「再生可能エネルギー尊重はいいが、CO2を吸収する木々を伐採して太陽光発電設備を設置するのは本末転倒と言ってもいい。県は太陽光発電に比べて遅れているバイオマスや小水力にも力を入れている」
※皆さんのご意見をお送りください。郵送・FAX・Eメールにて、軽井沢新聞社voice係まで。