「自然の中に住まわせてもらう」

軽井沢が見える万華鏡 №30

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 数年前、同時期に別荘建築の工事をしている所が2ヵ所あり、工事のやり方が対照的で興味を引いた。1ヵ所は敷地の木を皆伐し、道路側の並木も全て切った。 建築会社にとっては邪魔なものがなく工事しやすいのだろう。大型トラックが出入りしてあっという間に完成した。 道路側には低木が植えられ、続いていたカラマツ並木がそこで途切れてモダンな別荘が丸見えになった。 もう一方の工事現場では、建てる所だけ木を切り、通りに面したカラマツを5本移動して工事していた。 完成した後、木は元に戻され、新築の家は前からそこにあったかのように林に囲まれていた。私はこれが先人たちの言う「自然の中に住まわせてもらう」ということなのだと感心した。 自然に配慮する家が最近は少なくなっていただけに、この家の持ち主に好感を持った。所有者はわからなかったが、家の建て方の記事の中に、良い例としてこのやり方を紹介した。
 翌年、蟹瀬誠一さん(国際ジャーナリスト・明治大学教授)を取材することになり訪ねて行くと、その別荘の持ち主が彼だったので驚いた。 工事のやり方に感動したことを伝えると、「軽井沢なら当たり前のことですよ」と笑っていた。  今年3月、万平ホテルで蟹瀬さんの講演会が行われた。タイトルは「心に響くおもてなし~国際観光都市に今求められるもの」だが、話の内容は濃く、軽井沢のあり方を考えさせられるものだった。
「ジョン・レノンにカメラを向けない町。これも特徴の一つ。歴史・文化・自然など軽井沢は他の町にない特徴がある。それを大切にしなければいけない。自然は神から与えられたもの。だから自然は変えてはいけない」。 蟹瀬さんの話は軽井沢にとどまらず広がっていった。印象的だったのは「経済至上主義は文化を進める努力をしなくなり国を衰退させる。それは歴史が証明している」という言葉だ。 思わず、「経済優先」ばかり言っているどこかの首相に聞かせたいと思ってしまった。
 グローバルな視点で物事をとらえられる蟹瀬さんは、軽井沢の本質をよく理解している。 家そのものではなく、建て方一つにもそうしたことが見えてしまうのが、軽井沢の恐ろしいところなのかもしれない。

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