森の中にはたくさんの種類の木が生えています。花を咲かせている木もあれば、よく見ると、すでに実りを迎えている木もあります。そんな、夏に実をつける木のひとつが桑(くわ)の木です。
 森で見られるのは正確にはヤマグワと言います。ヤマグワには雄の木と雌の木があり、雌の木には7月になると小さな粒を寄せ集めたイチゴのような実がなります。はじめは赤い実も、やがて黒く熟すと甘酸っぱくてとってもおいしい果実です。養蚕のために畑に植えられた桑の木も、元はこのヤマグワ。熟した桑の実を夢中で食べて、口の中や周りが実の汁で紫色に染まった経験のある方もいらっしゃるでしょう?

 さて、こんなおいしい実を森の生き物たちが放っておくはずがありません。夏のおいしいデザートをいただこうと、いろいろな生き物がヤマグワにやってきます。ヒヨドリは甘い果実が大好物。桑の実も例外ではありません。種ごと飲み込まれ、消化されない種は糞とともに森のあちこちにばらまかれることになります。他の小鳥たちもやって来ますが、お目当ては実よりも実を食べに集まってきた虫のようです。この時期の桑の実にはアリやカメムシなど小さな昆虫がたくさんつきます。また、葉陰にはカイコの原種といわれるクワゴというガの幼虫が付いていることもあります。子育てに忙しい親鳥や、巣立ち雛を引き連れた家族の群れが、桑の木で餌を探す様子が見られるかも知れません。もっと大きな動物、ツキノワグマも実を食べにやって来ます。木登りが得意なツキノワグマが木の上で枝をたぐり、桑の実をほおばっているところを想像してみてください。きっと口の中は紫色でしょうね。

写真(上)桑の実、写真(下)クワゴ

 

 この他にも、いろいろな生き物が桑の木と関わり合って生活しています。夏の森の活発な営みが、一本の桑の木からみえてくるのです。




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