宣言書

軽井沢の美しく豊かな自然・景観は日本の貴重な財産
〜軽井沢まちなみメソッド宣言〜


 明治以来、日本を代表する保健休養地として、豊かな植生に覆われた美しい自然と国際色豊かな文化を育み、今日なお国際親善文化観光都市として発展を続けている軽井沢町。豊かな樹林、さえずる野鳥、木立を吹き抜ける涼風、誰もが思い浮かべる爽やかな町のイメージは、豊かな自然とともに、歴史と伝統に育まれてきた低層建築物を基調とする景観に支えられているのです。

 近年の飛躍的な高速交通網の発達による通勤圏の拡大、持続的な地価の下落による不動産の値ごろ感等により、新たな宅地造成や賃貸住宅の増加、飲食店や結婚式場などの商業施設の進出が顕著となっています。経済性を優先する開発が次々に行われる最近の状況は、歴史ある軽井沢の環境を急激に変化させており、将来に亘っての環境保全が危惧されています。今こそ私たちは、軽井沢を育んできた歴史、文化、社会の特質を尊重し、自然・景観に対して充分な考慮を払う必要があります。

 軽井沢町では、町の良質な別荘環境を次世代に引き継ぐため、田中康夫知事の賛同立会の下、平成13年12月11日に「マンション軽井沢メソッド宣言」を発し、あわせて軽井沢町の自然保護対策要綱(以下「要綱」という。)等を改正しましたが、この理念をさらに推し進め、町と県とが共同して軽井沢の自然・景観の保全・育成に取り組むため、あらためて要綱等を改正するとともに、長野県景観条例に基づく「景観育成ガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)を平成17年度末までに策定することとしました。具体的には、町の要綱において、共同住宅については、1棟20戸未満に加えて、敷地境界線からの距離を地域の区分と戸数に応じて、原則2.5m以上などときめ細かく規定し、増床を抑制します。また、県のガイドラインにおいては、別荘環境を保全するための建築物の意匠、形態や、既存木の計画的残置などを明確に定めます。

 まちなみ全体のグランドデザインを、深い見識と高い感性を有するマスターアーキテクトとともに描き、生み出していく景観創造の実践は、既に軽井沢の公共設置物において先駆的にスタートしています。官と民、公有・私有の隔てなく、さらに今後は町全域へと取り組みを広げ、軽井沢の景観を一体的に創り上げていきます。

 私たち軽井沢町及び信州・長野県は、軽井沢の美しく豊かな自然・景観が長野県のみならず、日本全国、さらには世界中の人々にとっての貴重な共通の財産であり、将来の世代に引き継がれなければならない社会的共通資本であることを深く認識し、適切に保全・育成する責務を果たしていきます。

 信州・長野県が、市町村と共同して発する初めての宣言は、かけがえのない資産である各地域の自然・景観を、確かな仕組みによって守り育みたいと願う、多くの県民の意思でもあります。自らの利と無縁に、次世代のため良い県土を遺したいと欲する人々の希みを、長野県は確実に、迅速に実現します。

  軽井沢の自然・景観は、歴史的にそうしたコモンズの人々によって支えられてきました。町民はもとより、来訪者、土地や建物の所有者及び使用者、事業者、設計者、多くの人々の意識の共有と協働によって今後も守られ、育まれるものであることはいうまでもありません。改正要綱等及びガイドラインの施行前においても、この宣言の趣旨に沿い、事業者及び設計者には適切かつ慎重な対応を求めます。

 平成17年(2005年)12月22日

軽井沢町長 佐藤 雅義
長野県知事 田中 康夫