町が移築に向け直接交渉も 川端康成旧別荘、解体作業始まる

2109_news_kawabata.JPG
(写真:
傾斜地に立つ、川端康成が過ごした別荘。2016年10月撮影

 売却され解体が決まった、ノーベル文学賞作家川端康成(1899--1972)の旧別荘について、軽井沢町が移築・保存に向けて動くも、所有者の意向により事実上叶わなくなった。

 同別荘の保存に関しては、軽井沢文化遺産保存会や軽井ナショナルトラストら6団体が軽井沢町議会に「川端康成別荘の保存を求める請願書」を提出したほか、軽井沢観光協会や軽井沢観光ガイドの会も保存の要望書を提出していた。その際、藤巻進町長は「川端別荘は行政が残さねばならない建物の代表格」として保存への前向きな姿勢を打ち出していた。

2109_news_kawabata02.JPG

(写真:軽井沢観光協会長から川端別荘保存の要望書を受け取る町長。

 議会への請願書を提出していた6団体は、町長の意向を受け請願を取り下げた。議会議決を待つと、日程的に解体の可能性が高まることも取り下げの理由だった。

 実際、夏期工事自粛期間が明けた9月1日から、同別荘の解体作業が開始された。荷物が運び出され、窓枠が外されていた。翌2日に町長は不動産業者に電話連絡して、町として移築保存する意向があることを伝え、行政手続き等にかかる時間の猶予を求めたが、業者からは「行政とビジネスのスピードは違う」と一蹴されたという。また同別荘は金融機関から借り入れて購入したため、日々利息が発生している。町の予算で金利部分を拠出することは難しいという事情もあった。

移築叶わずも、町長「最善は尽くした」

 9月6日の社会常任委員会で町長は一連の動きについて説明した。出席した議員からは土地ごと購入する意向はなかったのかと問われると「あの場所では町が所有しても活用できない。移築しかないと思っていた」と答えた。「請願を取り下げて頂き、議会でも認められ、所有者には町の意向を伝えられた。最善は尽くした」。

 軽井沢文化遺産保存会の増淵宗一さんは「町長はやる気がない。町長自身がまだやれることがあるので、本気で保存したいならやるべき」と失望を述べるも、町に頼らない別の方法を模索するという。

 9月6日午後から所有者の許可を得て、町教育委員会による同別荘の調査が始められた。間取りを記録したり、写真などで資料化する。残されているとみられる書籍等についても調査次第で今後の対応を検討するという。

関連記事