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ピッキオ 南 正人さんと語る
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常緑樹も大樹も、リス、ムササビ、フクロウなど、
野鳥や小動物にとって大切な場所です。
南正人さん
(NPO法人ピッキオ理事長)
×
鈴木美津子(しいある倶楽部代表) |
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● しいある倶楽部は橋渡し役
―木の保護活動を始めようとしたきっかけは何でしたか。
<鈴木> 軽井沢には私が来る前に娘が来ていました。伐採がひどい状態を見て、「大好きなツリバナの木が切られてしまう」 と電話してきたんです。その時に移植の費用を出したら違う場所に移すことができました。それが最初の木の保護です。そして娘は亡くなりましたが、車を運転していますと、そこここに黄色いテープが張ってあるのが目につき、何かと思ったらそれが伐採される木でした。大半の木が切られましたが、白樺やツリバナ、山桜などが残っていたので、引き取って移植しました。この方法なら守れると、そのとき気がつきました。
―この活動に反響があって、いろんなところから木がいらないから持っていってもらえないか、あるいは木が欲しいというのがあり、それをうまく橋渡しをされてということなんですね。
<鈴木> 娘の供養になるように思えて始めましたが、そうしたお電話が来るようになり、もっとがんばれると思った
んです。
●大木を残す意義は大変大きい |
<南> 最近、別荘地で木を切って更地にしてから家を建て、
それからまた木を植えるという方法が多く見受けられますが、大きな木を残しておくことは大切です。
<鈴木> しいある倶楽部では、樹齢50年以上の木を対象にしています。大きな木は苗木の10本20本以上の風格がありますので、歴史の逆戻りはさせたくないという気持ちでやっています。
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<南> 大木は人の心を雄大にさせる作用があり、存在感があります。大きな木だからこそ「うろ」ができて、ムササビやフクロウなどのそこにしか住めない動物の住みかにもなっています。生き物を含めた森のバランスからいっても、残した方が良い理由がたくさんあります。
<鈴木> 大木があると、癒されて大変な効果があることがわかっています。たとえば70坪くらいのところに大木が3本あれば、それだけで癒しの空間ができます。大木を個人で移植する場合、クレーン車や業者の手配など大変なので、それを助けられればと考えています。
<南> 例えば、赤松はリスにとってはとても重要な食べ物の供給源ですが、案外軽く扱われたりします。とにかく樹種をきちんとみながら、生態系も考慮しながら切らなくていい木は残していくことが重要です。
<鈴木> 野鳥やリスは、幹が太くて、裏側に隠れることのできる木があればやって来ます。いっぱい細い木があっても、
自分の身体より細い木では隠れることができないので、やって来ません。
<南> モミや赤松もある程度必要なんだと思います。バランスが大切です。
<鈴木> しいある倶楽部は、「木を切らない運動」というよう
に思われがちですがそういうわけではありません。間引かなくてはいけない場合も多々あります。赤松は成長が普通の松の3倍時間がかかります。樹高の高い赤松があるということは驚異的で、これが軽井沢の歴史を表しています。またムササビは、15m以上の高さが無いと飛べないんです。動物にも伐採は影響が大きく、ムササビや、野鳥なども減ってきているようです。
―木が多い別荘地の中を、売る区画全部の木を切ると、リスや野鳥が来なくなると聞いていますが。
<南> そうですね、木の枝が切られるなどして通路が寸断されると、リスはしかたがないので道路を渡ることになり、
道路をうろうろしていると、車に轢かれたり猫に襲われてしまうことになります。動物たちの通路はきちんと確保し
てやらないといけないですね。大きな木が枝を大きく広げられることが大切です。 |
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●自然を守った別荘の建て方
―鈴木さんの活動はテレビでも取り上げられ、かなり知られるようになりましたね。「植えてほしい」という連絡があっ
て行ってみると、狭い土地で、植えるスペースが全然無いということが沢山あったそうですが、そういう家はどうやって軽井沢の自然を守っていったらいいでしょうか?
<南> 草本類を植えるしかないと思います。本当は業者が土地を売る前に樹木のプランを立ててほしいですね。
<鈴木> 私はこの間、町長さんに、隣同士、境界線の上だけでも木を残してほしいということを伝えました。境界の
外側内側ではなく、境界の上だけでも両隣で1本ずつ植えれば70坪ほどでも何本か残せますよね。
<南> 大きな木を切るのではなく、それを中心にして別荘地の区画を作ればいいんですよ。今はそうではなく、区
画を区切ってから、木がじゃまだから切ってしまうということをしています。別荘地の中に大木を残し、けもの道など
は垣根で囲って野生動物が安心して通れる道を作るとよいですね。少し途切れたところから、リスなど住民も観
察できるようにしたら、軽井沢だからこそできる売り方になりますね。
<鈴木> せまい土地でも数本の樹木があれば、木々を渡るリスや小鳥、アカゲラなどの自然ゆたかな観察ができ
ます。これは一番贅沢なことではないでしょうか。 |
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●生態系を考慮しバランスの取れた保存を
―最近、唐松など針葉樹はいとも簡単に切られてしまうようですが、散歩していると半日陰みたいなところにスミレやルリ草があり、半日陰だからこそ出てくる植物がありますよね。そうした植物にとっては、針葉樹、常緑樹は大切なのではないでしょうか。
<南> 私の住んでいる隣にも大きな唐松の林があって、紅花イチヤク草が咲いています。その土地が売られることになったら、
鈴木さんにお願いして、土ごと別の唐松林に移してもらおうと思っています。イチヤク草は唐松が無いとだめなんです。我々がもう少し丁寧に、いろんな木の価値、それぞれの歴史性を説明していく必要がありますね。トータルに森があり、草原があることが大切です。 |
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ピンクのスズランとも呼ばれる
紅花イチヤク草 |
<鈴木> “どんぐり返し”(※編集部注1)の活動は良いと思いますが、苗を植えるだけでなく、今あるどんぐりの大木を残す方も注目してほしいですね。苗を千本植えることもいいですが、1本の木の保存も大切です。
※注1:小学生がどんぐりを拾い、苗に育てて山へ植える運動で、軽井沢では毎年行われています。 |
●軽井沢の自然を守るには
―今後、軽井沢の豊かな自然を守って残していくにはどうしたら良いか一言ずつお願いします。
<南>全体としてのプランが大切だと思います。大きな木が切られるようなところは、残していくことの価値を町全体で認めていく。ある部分は草原化するために木を切るというようなバランスの取れたプランをきちんと持つ。町の自然に
対するプランニングとそれを利用するときのルール、生態系、自然景観を配慮するようなプランを詰めていく必要が
あります。今のままでは漠然としすぎていると思います。そのためには、この町のいろんな人材、たとえば、都市設計の方、建築関係の方、生態系の専門家の人たちと、連動してやっていくと良いと思います。
<鈴木> 今はもうのんびりしていられない状況です。この破壊の状況からいくと、この1〜2年がターニングポイントだと思っています。一番のポイントは、不動産業者、建設業者の人たちが、「軽井沢では厳しく自然を守って売買しま
す、建築します。」と打ち出してゆくことが、業者の繁栄にも繋がると思います。環境を守るという一番の方法は、購
入する人もさることながら、不動産の方、建築関係の方によく知ってもらうことです。このまま破壊されたら自然が無
くなり、需要が無くなり、他の観光地に行ってしまう懸念があります。環境を守り、ご自分たちの身を守ってほしい。厳しいですがそう信じています。 |
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