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軽井沢新聞 スペシャル 軽井沢が見える万華鏡

軽井沢が見える万華鏡 No.16

Kaleidoscope

 小雨の降る7月初旬、明治時代の古い別荘を見る機会がありました。この別荘は以前から気になっていた建物。日本風の外観だけれど、「下見板張りで紅殻塗り、暖炉の土管煙突がある」ということから、軽井沢の別荘建築に興味のある人なら、西洋人が建てた相当古い別荘だということが分かります。明治の頃は建築用の木材が手に入りにくかったらしく、中山道・軽井沢宿の廃業した旅籠を買い取り、その資材で建てた外国人の別荘がたくさんありました。この別荘の前を通るたび、もしやそういう外国人別荘ではないだろうかと思っていたのです。

 この日は、軽井沢ナショナルトラスト会長の中島松樹さんも一緒に訪問。現所有者の深川さんは、土地の履歴がわかる事項証明書を用意して待っていてくださいました。
 明治42年に地上権が設定され(当時外国人に土地を売ることはできなかった)、その地上権者がジョーアンナ・アリス・キルビーであることが分かりました。「キルビーさんといえば…!」私たち軽井沢ナショナルトラスト関係者には馴染みのある名前です。剣豪小説で知られる作家・柴田錬三郎の別荘も旧キルビー別荘。しかし、外国人宣教師に詳しい中島さんでさえ、キルビーに関する資料がなく、どういう人物なのか分かりませんでした。このとき初めて女性であることが判明。深川さんの話から英国人宣教師ではないかと思われました。キルビーは一度この別荘を手放しますが、昭和24年に再び購入。おそらく帰国し、再び日本に戻ったのではないかと中島さんは推測します。

 キルビーが買い戻したほど気に入っていた別荘は103年の時を経て、今なお健在。
 その姿は当時のまま、愛宕の森にひっそりと佇んでいます。数日後、「軽井沢の歴史のすばらしさを知ってもらうためにも何とか残していきたい」と書かれた深川さんからの手紙が届きました。
(次号へ続く)

(広川小夜子 軽井沢新聞編集長)
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