議会ウォッチャーの6月メモ
テレビ受信機能のあるカーナビを搭載した自治体の公用車をめぐり、NHKの受信料が未払いとなっていた事案が全国で相次いで明らかになっている。当町においても、未払い額は概算で210万円に上る見通しであり、町はNHKと協議して精算額を確定し、補正予算案を提出。議決後、速やかに受信契約を結んで、支払いに応じる方針である。自治体によっては1千万円を超え、全国の未払い総額は1億円を上回る見込み(※朝日新聞報道)で、影響の広がりが注目されている。
多くの自治体は、「カーナビにテレビ機能がある場合に受信契約が必要との認識がなかった」と釈明している。しかし、これらの支払いはすべて住民の税金によってまかなわれることになる。単なる手続き上のミスや認識の甘さとするにはあまりに大きな金額であり、問題の根本には現行制度の構造的な矛盾があると考えざるを得ない。
NHK受信契約は、テレビを受信できる機器を設置した段階で契約義務が発生するとされているが、一般的な契約に必要とされる「意思の合致」がなくても義務が生ずるという現行制度は、契約法の基本原則に照らして極めて異例である。保険商品や金融商品、あるいは携帯電話等の通信契約ですら、契約前には必ず重要事項説明が行われ、契約者の同意が求められる。にもかかわらず、NHKの受信契約においては、視聴の意思がなくても、また説明もないままに機器設置のみで義務が発生し、後になって未払いとして多額の請求がなされるという制度は、公正さや透明性の点で大きな問題を含んでいる。
今回の問題を受けて、一部の自治体では今後はテレビ受信機能のないナビを導入する方針を示しているが、これもまた新たな財政的負担を生む。テレビ機能付きのナビを撤去して新しい機器に入れ替えるには新たな費用がかかり、仮にすぐに交換したとしても過去分の受信料は支払い対象から除外される可能性はない。つまり、制度の不備によって、受信料に加え機器交換費用という二重の支出が発生し、その全額が公費でまかなわれる事態が生じている。
自治体に一定の法的責任があるとして未払い分の支払いに応じるとしても、そのこととは別に、議会や首長は住民の立場に立ち、制度設計の問題点と運用の在り方について、国やNHKに対して説明責任を求め、制度の見直しを働きかけていくべきである。そして、そうした問題意識を広く共有してもらうためにも、世論に対して積極的に訴えかける努力を重ねる必要がある。
同時に、報道機関もこの事案を単なる「未払い発覚」の事実報道にとどまってはならない。制度的な背景や責任の所在について深く検証し、メディアとしての見解や提言を示していくことを求める。公共放送という立場を掲げるNHKに対し、契約制度の明確化と公正な運用を促すことは、報道機関自身の役割でもある。制度の不備により、地方自治体とその住民が一方的な負担を強いられる構図は、民主的統治の観点からも見過ごすことはできない。(文・赤井信夫)