【軽井沢新聞11月号】議会ウォッチャーの11月メモ
オープンドアスクールは長野県が主導し、軽井沢町が令和8年の開校を計画。上田市も令和9年の開校を目指し準備会を始めた。注目される一方、方向性をめぐる議論が続く。
町は軽井沢高校北校舎の空き教室のほぼ全体を活用して開校したい考えを示している。既存施設を使いコストを抑え、県立高校と連携する方針だ。しかし委員からは「併設による運営の複雑さ」や「生徒間の線引き」「教育方針の独自性が保てるのか」という懸念も相次いだ。宮本教育長は軽高の活用ありきの姿勢を崩さず、両立のメリットを強調したが、理念と現実の溝はなお深い。
オープンドアスクールは「多様な学び」を掲げ、午前10時半から登校できる柔軟なスタイルを想定する。カリキュラムの中心は午後4時前から始まり、四時間目の終わりは午後7時近くになるという。夜間中学との連携を意識し、オープンドアの三・四時間目と夜間中学の一・二時間目を重ねる計画だが、冬場の軽井沢といえば外は真っ暗。町の循環バスはすでに運行を終えている。子どもが一人でバスや電車に乗るのは難しいという声も保護者から上がった。午前10時半登校では送迎ができず、帰りは暗くなる。日常の生活リズムに即して考えれば、制度の理想を現実に落とし込む苦労は容易に想像できる。
また、昼も夜も給食はなく、弁当を自前で用意しなければならない。家庭の負担をどう軽減するかという視点は、理念の陰に置き去りにされている。夜間中学は入学検討者3名で、担当者は「PR不足」と嘆くが、需要の実態は手探りだ。上田市にも開校すれば、東信地域に二校体制となるが、その必要性を裏づけるデータや分析はまだ見えてこない。
オープンドアスクールが「一条校」として開校する点にも議論がある。学習指導要領に基づく一条校は、一定の枠組みの中で授業を運営することが求められる。だが「多様な学び」や「個に応じた教育」を掲げるなら、既存の制度そのものを問い直す必要があるのではないか。自由な学びを制度の枠に収めるとき、それは本当に「オープンドア(開かれた扉)」と言えるのだろうか。
軽井沢という土地は、国内外から人材と文化が交わる特異な環境を持つ。「教育の町」として存在感を示したい意向が透けて見える。しかし、受け皿が整わねば、新しい学びは看板倒れに終わりかねない。傍聴席にいた4人の町議にも、その点を心に刻んでほしい。
「学びの多様性」とは、カリキュラムの柔軟さだけを指すものではない。通う生徒や家庭、支える地域の側にも多様な事情がある。その声をどうすくい上げ、制度に反映させるか。そこにこそ、本当の意味での「オープンドア」が試されているのではないだろうか。(文・赤井信夫)




