近茶流宗家 柳原料理教室主宰 柳原 一成 さん

1707_people_01.jpg柳原 一成 さん
 江戸時代後期の文化文政期、町家の奥様方が、冠婚葬祭に合わせて用意した江戸懐石「近茶料理」を今に伝える。家伝の懐石と包丁道を引き継ぎ、柳原料理教室(東京・赤坂)の主宰として、長男で嗣家(しか)の尚之さんとともに、大勢の門下生に料理を指導。教室では料理の作り方のほか、食材や調理道具の扱い方、膳組作法などについても講義する。もともと女性の手で興った料理法のため、使う出刃包丁も小さめの五寸(15cm)と決まっている。 「魚の関節に包丁を入れると、鯛などの大きな魚も楽に下ろせます。『柔よく剛を制す』の技術を応用した、包丁の使い方が特徴です」
 先代からの軽井沢の山の家に、大学生の頃から訪れる。自宅のある六本木は「一日中明るく、夜中でもカラスが鳴く」。軽井沢に来ると「夜中は真っ暗で、懐中電灯がないと歩けない。その環境が体に英気を入れてくれています」。
 30年ほど前、発地に畑を借りて以来、春から秋まで毎週通う"週末農民"に。トウモロコシにじゃが芋、長ねぎ、白菜、かぼちゃなど、収穫した野菜は、自宅や東京の教室で使い、福祉施設にも寄付している。
「育てて、植物のなり方を見るのが好きなんです。どうしたら農薬を使わずに済むかとか、どんな虫がつくかとか、そういうことを学ぶのが楽しい」
 5~7月に8話連続で放送したNHKの土曜時代ドラマ「みをつくし料理帖」の料理監修を尚之さんが担当。女料理人役を務めた俳優黒木華さんが、教室で学ぶ様子を見ていて、気付くことは多かった。
「黒木さんは上達が早い。メモを一切取らずに、せがれがするのを一生懸命見てるんですね。それからは教室でも、私が魚をおろすときはノートをとることより、よく見ることを奨めるようになりました」
 柳原家にとって家族旅行は、イコール食材巡りの旅のこと。
「『泊まる旅館は決めなくても、行く港だけは決めておく』というのが先代の教え。子どもたちも「夏に北海道へ行っても、札幌ではなく昆布の育つ海岸ばかり」と言っていたけれど、今では彼らのライフワーク」
 1942年生まれ。床暖房を入れているので、畑仕事のない冬も軽井沢へ。「孫たちがスキーをするので、一足早く来て、家を温めておくんです」と、孫煩悩の一面も。

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