【お店の履歴書】来館者とともに歩んだ 17年に幕 軽井沢現代美術館9/23閉館へ 

 現代アーティストの作品を中心に展示している軽井沢現代美術館が、9月23日をもって閉館する。2008年に開館してから17年。多くの作品が美術館を彩ってきた。

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(南原の交差点からほど近い立地。細い道を進むと木々の先に美術館がある。)

 創業者は東京の神田神保町で海画廊を経営していた谷川憲正さん。自身のコレクションを展示する美術館を作るという願いをかなえようと、様々な物件を見て回った。「この場所を紹介してもらい、夫が一目ぼれしました。予定より大きな建物でしたが、静かで緑に囲まれた場所に惹かれて決めました」と話すのは、妻の美奈子さん。2014年に憲正さんが亡くなってから、館長を引き継いでいる。

 美術館の名の通り、所蔵している作品の多くは現代アーティスト。中でも海外で活躍した日本人が中心だ。「公的な後ろ盾もなく、自分の腕一本で名をあげてきた方たちに谷川は魅力を感じていました。でも、開館当初は一般的には知名度が高くなかったと言えます」と美奈子さん。海外では名が通っていても、当時の来館者から「知っている作家が一人もいなかった」と言われたこともあったという。

 それでも毎年企画展を開き、様々なアプローチで現代作家を紹介。来館者も徐々に増え、今ではリピーターも多くなった。「微力ながらも、日本の現代アートを知ってもらうきっかけになれたのかなと思います」と美奈子さんは振り返る。

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(館内に入ると、展示エリアすぐの場所で奈良美智さんの「デコデールちゃん」がお出迎え。)

 館内には、開館当初から来館者が自由に絵を描けるスケッチブックが置かれてきた。毎年多くの絵が寄せられ、スタッフはその中から選んで額装し、館内に飾ってきたという。閉館が決まった今年は、絵ではなく「閉館が残念でならない」と綴られたメッセージも残されており、美術館と来館者の間に静かな交流が生まれていたことを改めて実感した。

 閉館を決めたのは、様々なタイミングが重なったことだった。亡き憲正さんが目安にしていた閉館の年は、世間がコロナの真っただ中。美術館も臨時閉館せざるを得なかった。「思うように動けない状態で閉館するのは本意ではなかったので、もう少し頑張ろうと思いました。また、現代アートの認知度が上がってきたこともあり、今年で閉館することに決めました」という。

 現在は娘の華子さんも経営を手伝っている。美術館に入ると、思いを込めて作った憲正さんの空気を感じると話す。「子どものころは美術にあまり興味がありませんでした。高校生くらいの時に父と美術館へ行く機会があり『金額などを考えず、1点だけ買えるとしたらどれがいいか、見終わったら教えて』と言われて鑑賞したんです。そう思って鑑賞すると、自分の好みとも向き合うことになりました。同時に父や他の人が何を選ぶのかにも興味が湧き、そこから面白いと思うようになりました」と華子さんは思い出を語った。

 「堅苦しく鑑賞するのではなく、気軽に見てもらいたいという思いが谷川にはありました。そういった意味では、ご年配の方から若いカップルのリピーターさんまで、幅広く来ていただけたことに感謝しています」と17年を振り返り、柔らかい笑みを浮かべる美奈子さん。今後はまた新たな形で作品を展示する方法を模索している。

軽井沢町長倉2052-2 TEL0267-31-5141

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草間彌生さんのカボチャをモチーフにした作品(上)や、手に直接絵の具をつけ、段ボールやキャンバスに描くロッカクアヤコさんらの作品(下)を展示している。

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