アマチュア・ピアニスト 村岡 清一 さん

村岡朗読_0351.jpg 村岡 清一 さん
 ピアノを始めて10年を記念し91歳のとき、軽井沢大賀ホールでリサイタル(2014年)を開き、約600人を集めた。観客から届いた手紙やメールを、今もたまに読み返す。
「演奏が上手かった、と書いてあるのは一通もない。『笑った』『元気をもらった』『楽しかった』という感想がほとんど。でもそれが何より」
 同ホールで5月14日、2回目の弾き語りリサイタルを開く。前回やらなかった試みとして、演奏曲をイメージした自作の文章も朗読する。軽井沢に家を建てて50年の2020年に開催を予定していたが、耳が遠くなってきたこともあり時期を早めた。
 「全く聞こえなくなったら、何を弾いているかわからなくなる。ベートーヴェンのように、ピアノが頭に入っていたらいいんだけど...」
 毎週通っているカラオケの会で、「演奏しながら、他の人と歌えたら楽しそう」と、81歳でピアノを始めた。鍵盤が光るシンセサイザーを購入し、光に合わせて弾いてみるも「面白くない。モグラ叩きをやっているよう」。ピアノ教室に申し込みの電話を入れると「お孫さんの話ですか」と勘違いされた。
 現役時代は写真関係の会社を経営。退職後10年間、妻の嘉子さんと二人で暮らしたスペイン南部のコスタ・デル・ソルは「のんびりした空気が合っていた」。
 1998年に帰国すると、身体を患っていた嘉子さんの療養も兼ね、東京ではなく、別荘のあった軽井沢に住んだ。翌99年、嘉子さんが他界するとひどく塞ぎ込んだ。人の集まる場所に顔を出しても、上手く溶け込めない日々。そんな時、誰とでもすぐ打ち解ける嘉子さんを思い出し、「残りの人生は家内の真似をして生きよう」と決めた。誰にでも自ら積極的に話しかけ、笑顔でいることを心がけると、周りの空気が変わった。
「僕は家内の遺産で生きている。いくらかって?お金ではなく、人間の生き方という遺産のこと」
 パソコン、陶芸のクラブにも通い、今やiPadの操作もお手の物。週に1回、5kmのウォーキングを欠かさず、カーリングも定期的に楽しむ。劇場で観た昨年の大ヒット映画『君の名は。』は「画面がきれいで音楽もいい。小説も読んだよ」。
 飽くなき好奇心と挑戦心、何事も楽しんでやろうというその姿勢...。「スーパーおじいちゃん」から、若い世代が見習うべきことは多い。

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