国立天文台長 常田 佐久 さん

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 太陽観測衛星「ようこう」(打ち上げ1991年)、「ひので」(同2006年)などの開発と運用を主導した。太陽表面の爆発現象フレアの起こるメカニズムや、磁場生成の仕組みなどについて、数々の論文を発表。日本の学術賞としては最も権威のある日本学士院賞を今年6月に受賞した。

 研究対象に太陽を選んだのは「恒星の中では最も近く、観測機器がなかった当時(40数年前)の日本でも、工夫を凝らせば成果を出せる」と思ったから。太陽観測衛星の開発は、国の膨大な予算を投じる、10数年がかりのプロジェクト。打ち上げが成功し、初めての天体撮影が成功するまでは「生きた心地がしないですね」。

 「ひので」は13年経った今も、高度680kmの宇宙空間から太陽観測を続けている。観測データは、打ち上げ直後から即時公開し、世界30カ国の研究者が利用。発表された論文は2400を超え、NASAやESA(欧州宇宙機関)の太陽観測衛星計画にも大きな影響を与えた。

 「今では、『ひので』がどこの国の衛星かわからない、という人もいる。生産性の高い仕事になりました」

 2018年4月から現職。国立天文台の最も重きを置くプロジェクトが、口径30mの超大型地上望遠鏡TMTの建設計画。数カ国共同で2030年の完成を目指している。太陽系外惑星に生命の兆候を探ることが、目的の一つだ。

 「太陽系外のほとんどの星に惑星があって、地球のような惑星もかなりあることがわかっている。地球外生命体の探索なんて、若い頃は考えもしなかったけど、もうSFの話ではない。多くの天文学者の関心も、そちらにシフトしています」

 20年ほど前から、北軽井沢の山荘を訪れている。以前は夏中心だったが、年々頻度は増え、季節を問わず月に2回ほど来ている。

「特に冬がいいですね。雪が積もった風景が非常にきれい。特別なことは何もしませんが、ストレスが消え、東京で疲れた心身がもとに戻るんです」

 1954年生まれ。いずれ北軽井沢への移住も視野に入れるが、「新しい観測施設の建設にめどをつけて、若い人たちが十分活躍できる環境を整えるのが先」と前を向く。世界が注目する大きな仕事がまだ残されている。

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