恵泉女学園大学副学長 岩村 太郎 さん

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 第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの迫害から逃れたユダヤ人難民にビザを発給し、約6000人の命を救った外交官、杉原千畝の研究を続ける。外務省が公にせず、本人も多くを語らなかったため、杉原の名が日本で知られるようになるのは1980年代以降。戦後すぐに正しく評価されていたら「ノーベル平和賞の受賞も、おかしくなかった」。杉原の決断を「立ち止まる勇気」という言葉でたたえる。

「ナチスに真正面から逆らったわけではないんです、杉原は。他の人が同じ方向へ流されているときに、一人踏みとどまって正義を貫いた。今の時代にも必要とされる行動ですよね」

 キリスト教倫理学や哲学が専門。2018年に出版した『10歳の君に贈る、心を強くする26の言葉』は、子どもの抱える悩みや疑問に、過去の哲学者の言葉を紹介しながら答えた一冊。中国語にも翻訳され、現地での発売が決まっている。出版社に勤める教え子から、企画を持ち掛けられたのが始まりだった。

「すごく嬉しかったですよ。売れようと売れなかろうと、非常に誇らしい仕事になりましたね」

「人間はどこまで自由か」「男女間の友情は成立するか」といった、永遠に答えが出ないような問いでも、考え抜くことの大切さを学生に説いている。

「(大学入試のような)選択肢の中から正しい答えを選ぶ能力も大事だけど、人生ってそれだけじゃない。考えることをやめたら、人間はどんどん機械のようになって、魅力を失ってしまう」

 幼少期から夏を過ごした軽井沢には、思い出がいっぱい。ずっと貸別荘ぐらしで、「いつかは自分の家を」と思い続け10数年前に実現。週末を中心に春〜秋に訪れる。中学3年から続けるアルトサックスは、忘れずに持参する。

「隣りと離れているし、思いきり吹けるんですよ。息子がピアノを弾くから、一緒に合わせたりね。まだまだ上手くなりたいです」

 1955年生まれ。祖父、父ともに牧師で、哲学やキリスト教を学ぶことは、幼い頃から生活の一部だった。新型コロナの影響で、この一年は学校対応の協議に追われたが「どんなに忙しくても、心のゆとりは持っているようにしたいですね」。

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